はじめに
~保護の役割と素材選びの考え方~
弊社では樹脂板にフィルムを貼る「加飾加工」を得意としていますが、なかには「マスキングフィルムだけを貼ってほしい」というご相談もよくあります。
実はこの“マスキングだけ”の加工には、表面を守るための大切な意味と、素材ごとの特性に基づく判断が関わっています。今回は、マスキングフィルムの役割と素材選びの考え方について、現場からの視点でお話しします。

マスキングフィルムとは?なぜ貼るのか?
マスキングとは、簡単に言えば「素材の表面を一時的に保護するために貼るフィルムや紙」です。
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輸送時や加工途中などに板同士を重ねたりする。
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裁断・打ち抜き・レーザー加工などの後工程がかならずある。
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作業中に手袋をしていても繊維クズや手袋に付着した汚れが転着することもある。
こうした場面では、どうしても物理的に擦り傷や油脂汚れが発生しやすくなります。
そのため、マスキングフィルムは「キズや汚れを本体に直接つけないための“盾”」として重要な役割を果たします。
フィルム加工後にマスキングフィルムを貼る理由
私たちが扱う装飾フィルムには、あらかじめ保護フィルムがついていないものも多く存在します。
たとえば:
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透明や蒸着タイプのホログラムフィルム
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ブリスター対策(アウトガス)のアンダーフィルム
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加工用に設計された透明フィルム
これらを樹脂板に貼り付けた後、表面がむき出しになってしまうと、せっかくの仕上がりがキズだらけになってしまいます。
そこで、加工後の表面にマスキングフィルムを後から貼ることで、美観と品質を守っているのです。
また、アンダーフィルムの上から別の機能性フィルムをオーバーラミネートする際に異物混入を防ぐ意味合いでポリマスキングフィルムを工程材として貼る事もあります
印刷加工後の“再マスキング”も少なくない
フィルム面や樹脂板側に印刷をする際、必ずといっていい程元からついているマスキングフィルムは剥がします。
そして印刷加工を行った後、そのままむき出しで後加工に進む場合と”再マスキング”する場合に分かれます。
弊社の場合体感で7:3ぐらいの比率でポリマスや和紙アプリケーションを貼るケースが多いです。
理由として下記の点が挙げられます。
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印刷作業中に紙マスキングが汚れてしまった
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印刷後にレーザー加工をするので、紙ではなくポリ製や和紙タイプに貼り替えたい
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在庫中の品質を守るため、安定性の高い素材に変更しておきたい
紙マスキングに潜む“再粘着”のリスクとは?
一部の樹脂板に対してデフォの状態でついている紙マスキングは、**水に溶けやすいタイプの粘着剤(水溶性粘着)**を使用しています。
乾燥した状態では問題ありませんが、以下のような条件が重なるとリスクが高まります:
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湿気の多い梅雨時期
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倉庫などで長期間保管されている
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樹脂板自体が水分を吸収しやすい
このような状態で時間が経過すると、粘着剤が再び活性化し、剥がす際に粘着質が板材表面に転着(てんちゃく)するという問題が発生します。
この面に直接印刷するとインクがにじんでしまうことがあり、その為事前に溶剤で拭き取るという想定外の手間が掛かる場合が実際にあります。
弊社もフィルムを貼る場合、無数に転着した糊が原因で全体的に砂をまいたような異物痕となった不具合が過去にありました。
それを嫌ってなのか、時折加飾フィルムや機能性フィルムではなくあえてポリマスキングフィルム単体の加工依頼がある程なんです。
紙マスキングのトラブルは、時間の経過とともに顕著になります。
あらかじめ一定期間の在庫を見越す場合には、
「最初からポリマスキングに貼り替えておいた方が、後の歩留まりが安定する」
という判断が功を奏すかもしれません。
多少の貼り替え工数が発生したとしても、不良リスク・再加工・洗浄といった後工程を考えれば、結果的にトータルコストを抑える選択になり得るのです。
但し、フィルム面や樹脂板に貼る場合と印刷面に貼る場合はポリマス一つとっても全く同じ条件とはいかない場合があります。
特にツヤのある樹脂板やフィルム面に貼るものとUVインクジェット等で印刷した面はあきらかに表面状態が異なります。
うまくくっつかない事もあれば、逆にフィルムの粘着質とインクの成分が化学変化を起こし経過で強固にくっつき過ぎるケースがあります。
極端にいうと強く着きすぎて剥がれなくなる場合があります。(ブロッキング)
これを避ける為にある程度用途に応じたフィルムを使い別けております。
新たに確認が必要な場合はフィルムメーカーで選定してもらう事もあります。
そのあたりのノウハウはございますので、遠慮なくご相談願います。

レーザー加工には「和紙アプリケーション」が最適な理由
レーザー加工時には、**和紙タイプのマスキング(和紙アプリケーション)**が高い評価を得ています。
和紙アプリケーションとは本来、カッティングシートの施工用途に使われるものですが、それゆえ規格製品が入手し易く粘着強度も選択可能です。
また、一般的なマスキングテープと違って広幅で調達できるメリットもあります。
ポリマスキングでは起きやすい問題
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レーザーの熱でポリエチレン製フィルムが収縮し、下地との間に隙間ができる
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そこから煤(すす)が入り込み、表面に汚れが残る
和紙アプリケーションのメリット
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熱による収縮が少なく形状を保持
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表面が繊維質で、煤を吸着してくれる
→ 加工後の下地がきれいなまま保たれる
このように、レーザー加工においては、和紙タイプが最も仕上がりを美しく保てる選択肢として認識されています。


保護フィルムの“キズ”は機能の証です
時折、「保護フィルムに擦りキズがある」といったお声をいただくことがあります。
もちろん、大きく破れていたり、機能を損なう状態であれば貼り替え対応が必要です。
しかし、**軽度な擦り傷やうっすらとした汚れは、むしろ“保護材が本来の役割を果たした証”**と考えることができます。
マスキングはあくまで製品を守るための“カバー”であり、それ自体が商品ではありません。
フィルムがキズを受けている=本体が守られたという状態は、品質保持の観点からむしろ正しい結果ともいえます。
極力綺麗な状態を心掛けますが、過度に擦傷等をご指摘される事はご容赦願います。
まとめ|マスキングは“ただ貼るだけ”ではない
マスキングフィルムは、製品の見た目と機能を守るための重要な一手です。
素材・環境・後工程の内容によって、
「何を、なぜ、いつ貼るか」を判断することで、製品の品質と作業効率が大きく変わります。
弊社では、こうしたマスキングフィルム単体の貼り加工にも対応しています。
印刷やレーザー加工の前処理、在庫対策としての貼り替えなども柔軟にご相談可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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- ポリマスキング, 和紙アプリケーション



