今回は、弊社でもよく使用している素材「HIPS(ハインパクトポリスチレン)」についてご紹介します。
日用雑貨や什器、内装パネル、さらには浴室ミラーなど、幅広い分野で使われているこの素材ですが、意外とその特徴を知られていないことも多いのではないでしょうか?
特に近年、PETやアクリル以外の素材を検討する企業様も増えており、「割れにくく」「水に強い」樹脂板としてHIPSへの関心が高まっています。
この記事では、HIPS樹脂板の基本的な特徴から、メリット・デメリット、実際の用途例までを分かりやすく解説いたします。
HIPSとは?
HIPSとは「ハインパクトポリスチレン(High Impact Polystyrene)」の略称で、ポリスチレン(PS)にゴム成分を添加して耐衝撃性を高めた熱可塑性樹脂の一種です。
ポリスチレンと言えば、発泡スチロール(EPS)を思い浮かべる方も多いかもしれません。同じスチレン系の仲間ですが、HIPSは発泡させていない、硬質の樹脂素材です。
成形時にゴム系成分(主にポリブタジエン)が加えられているため、通常のPSに比べて「割れにくい」「しなやか」といった特徴を持っています。
弊社では、主に3×6サイズ(約915×1,830mm)の板材で仕入れたHIPSを芯材として、ミラー加工などに使用しています。
ただ、諸事情によりいまのところ厚みは1.8㎜厚のみになります。
メーカー受注生産ロットを満たせば他の厚み等の可能性もありますので、そこは別途ご相談下さい。

HIPSのここがいい!──長所をまとめてみた
1. 割れにくい!耐衝撃性◎
HIPSの最大の特長はその「割れにくさ」にあります。
薄くても強度があり、加工や取り扱い時に破損しにくいため、ミラーの芯材や什器などに最適です。
特に薄物のアクリルやPETでは不安の残るシーンでも、HIPSなら安心してご提案できます。
2. 水を吸わない!水回りにぴったり
HIPSは吸水・吸湿しないという特性を持っています。
これは水まわり製品にとって非常に重要なポイントです。
たとえば浴室や洗面所・プールサイドなどの高湿度環境でも反りや変形が起こりにくいため、長期間の使用に適しています。
実際に弊社では、HIPSを芯材にした浴室用防曇ミラーの製造を手がけております。
また、ある案件ではプールの中に沈めて泳ぎのフォームをチェックする商品に採用された事例もあります。
アルミ蒸着などの表面素材は水分に弱い傾向がありますが、HIPS本体が水を吸わないため、トータルでの耐久性向上につながるケースも多く見られます。
スイムミラー事例(イメージ図)

浴室向けミラー事例



3. コストバランスに優れた素材(ただし近年は価格に変化も)
HIPSはかつて「非常に安価な樹脂素材」として知られていました。
現在でもPETやPVCなどと比べて、比較的リーズナブルな素材ではあります。
また、打ち抜き加工にも適しているため、量産時のトータルコストを抑えることも可能です。
一方で、近年は原材料価格の高騰により、HIPSも価格がじわじわと上昇傾向にあります。
以前のような「圧倒的コストメリット」は薄れてきたものの、依然として「割れにくい」「水を吸わない」「加工しやすい」といった特性を考慮すれば、十分に選択肢として検討する価値のある素材です。
打ち抜き加工にも対応、量産に向く素材
HIPSはトムソン型を使用した打ち抜き加工にも対応できるため、量産工程への組み込みがしやすいという利点があります。
その為、製品形状に応じた調整が行いやすいため試作から量産までスムーズに移行しやすい素材と言えるでしょう。
HIPSの課題──短所や注意点もあります
鏡面性はやや劣る
弊社ではHIPSをミラーの芯材として使用していますが、表面の平滑性はPETやアクリルに比べてやや劣ります。
そのため、ミラーフィルムを貼った際の鏡面性(反射の美しさ)もやや落ちます。
特に大型サイズでの使用では、反りやゆがみ・メラつきが目立つ場合がありますので使用環境やサイズには注意が必要です。
板厚バリエーションに限りがある
前述しましたが現在、弊社ではHIPS板を特注で1.8mm厚にて仕入れておりこの厚みが主力となっています。
他の厚みも理論上は可能ですが、ロットや納期の都合により取り扱いに制限があります。
もし受注生産ロット未満で板厚の自由度を求める用途には、他素材との比較検討をおすすめします。
水回り用途の開発をご検討中の方へ
HIPSは、耐衝撃性・耐水性・加工性に優れたバランスの良い素材です。
特に浴室ミラーや水まわり雑貨・屋内什器など、割れにくさと耐水性が求められるシーンにおいては非常に有効な選択肢となります。
弊社では、HIPS樹脂板を用いた貼り合わせ加工(ミラー加工など)を得意としており、用途に応じた素材提案・加工相談も承っております。
製品開発の段階から、ぜひお気軽にご相談ください。
■まとめ
HIPS樹脂板は、目立つ素材ではないかもしれませんが、製品の安定供給や加工性、耐久性といった観点から見ても、非常に「使える素材」です。
特に水回りでの活用においては、他の素材にはないメリットを発揮します。
今後も弊社ブログでは、こうした「ちょっと地味だけど実力派」の素材や加工技術について、わかりやすくお伝えしてまいります。
最後までお読みいただきありがとうございました。