はじめに
アクリル板は透明性や加工性に優れ、多くの分野で利用されています。
そのため「アクリル板は水槽にも使われるので、水に強い」と思われることが一般的です。
しかし、実際にはアクリル樹脂板にも吸湿・吸水性があり、場合によっては湿気の影響を受ける事があります。
本記事では、アクリル板の吸水特性や、それがミラー加工に及ぼす影響について詳しく解説します。
1. アクリル板の吸湿・吸水性とは?
アクリル樹脂は、一般的に吸水率が低い樹脂ですが、完全にゼロではありません。
湿度が高い環境では空気中の水分をわずかに吸収し、膨張や反りが発生することがあります。
具体的な吸水率は条件によりますが、一般的には0.3~0.5%程度と言われています。
この吸水特性により、以下のような問題が発生することがあります。
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湿度の高い環境下での変形(反り)
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透明アクリル板の曇りや白濁
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アルミ蒸着ミラー製膜面の酸化消失
このため、アクリル板はメーカーから出荷される際に防湿紙で密封されることが一般的です。
防湿紙の内側は樹脂コーティングや蒸着加工が施され、湿気の影響を最小限に抑える工夫がされています。
2. アクリルミラーにおける吸湿性の影響
弊社では、アクリル板にミラーフィルム(MP-HC)を貼り付け、レーザーカットを施した製品を製造しています。
アクリルは樹脂板の中でも平滑性が最も優れているため、大型の姿見やレーザー加工品として多用されています。
しかし、吸湿・吸水性が原因で以下のような問題が発生することがあります。
(1)レーザーカット後のアルミ蒸着膜の欠損
レーザーカットしたアクリルミラーの端部では、時間の経過とともにアルミ蒸着膜が酸化消失するケースが見られます。
この現象は、アクリル板が吸湿・吸水することで、侵入した水分がアルミ蒸着層と化学反応を起こし、酸化が進行するために発生します。

(2)水辺での使用によるミラーの劣化
特に、水辺や湿度の高い環境で使用される場合、アクリルミラーの劣化が顕著になります。
実際に、弊社では過去に室内用として納品したアクリルミラーが、実は銭湯施設向けで使用されていたことが判明し、数か月後にミラー全周のアルミ蒸着膜が消失するトラブルが発生しました。
このような事例から、水回りの環境ではアクリルミラーの使用は適していないことが分かります。
また、アクリルの場合は板厚と加工法の兼ね合いで面取りを要求されることがあります。
面取りを施すとフィルム面も削る事になり、アルミ蒸着層がより水分に触れやすくなってしまいます。



3. 弊社製アクリルミラーとガラス鏡の違い
アクリルミラーの劣化現象は、古いガラス鏡が錆びて黒ずむ現象と類似しています。
しかし、ガラス鏡とアクリルミラーでは以下のような違いがあります。
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ガラス鏡:
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吸湿はしないが、端部から水分が侵入しやすい。
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銀引き鏡は銀膜の上に銅引き膜があり、経年劣化で銀膜が酸化すると銅膜が露出し、黒ずみが発生。
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アクリルミラー:
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アクリル基材そのものが吸湿・吸水する。
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侵入した水分とアルミ蒸着膜が反応しやすく、酸化による消失が発生
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4. 解決策と今後の対策
弊社では、樹脂ミラーは使用環境に応じた適切な素材選定を行っています。
特に水辺での使用が想定される場合、アクリルではなくHIPS(ハイインパクトポリスチレン)樹脂やPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を採用することで、吸湿による劣化を防ぐことができます。
特にHIPSはほぼ吸水・吸湿しないため、浴室や湿気の多い場所でも問題なく使用されている素材です。
今後は、アルミ蒸着膜の欠損を防ぐために以下の対策を検討しています。
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防湿コーティングの導入:カット端部に防湿性のある塗料を塗布し、吸湿を防ぐ。

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乾燥処理の実施:カット後に乾燥庫で処理し、残留水分を飛ばす。
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他素材の検討:PETやHIPSに変更し、トムソン加工を採用する。

まとめ
アクリル樹脂板は吸湿・吸水性があり、環境によっては変形やミラーの劣化を引き起こすことがあります。
特にレーザーカット加工品や水辺での使用においては、吸湿性による影響が顕著になるため適切な処理・素材選定が必要です。
弊社では、HIPSやPETなどの代替素材や、防湿コーティング・乾燥処理の導入を進め、より高品質な製品づくりに取り組んでいます。
今後も実験・検証を重ねながら、お客様のニーズに最適な製品を提供してまいります。